2018年08月11日

高峰秀子の縞の着物@「女が階段を上る時」

エッセイを読んだら、着物に相当なこだわりがありそうな高峰秀子。彼女が衣装を担当し、バーのママを演じている映画と知り興味津々でDVDを見ました。「放浪記」の非美人オーラ全開ぶりとはどれくらい違うんだろう…?

高峰秀子演じる銀座のバーの雇われママ、圭子は水商売っ気があんまり無く、色仕掛けのあざとさなどとは無縁の雰囲気。あれ?夜の女王をゴージャスに演じてるのかと期待した私はちょっぴり肩すかしをくらった気分...いや、それは勝手な思い込み。むしろ型にハマることなく、高峰秀子ならではの知性と上品さが生きる圭子ママは話が進むにつれ、どんどん魅力と美しさが増す女性なのでした。

そして見どころのひとつ、セレクトされる着物も品が良くて、着こなしも含めて玄人さんぽくない。特に縞柄がお好みで、それもいかにも粋を狙うんじゃない大人しい縞がほとんどでした。


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そんな圭子ママの趣味を印象づけるべく、最初のほうに「ママってほんとうに縞が似合うわ~」と別の店のママに褒められるシーンがあります。圭子のライバルであり友人でもある淡路恵子演じるユリの店でのひとこまです。

話は逸れますが、淡路恵子の若い頃の美しさは格別!だと思います。たいてい水商売か、進歩的な都会の女性の役でよく登場しますね。どんな場面でも淡路恵子が登場するとパーッとその場が華やかな別世界に塗り替えられるように感じて、その時はいつも心の中で拍手喝采。今回、2人のママが喫茶店でくつろぐシーンでは、煙草を持つ手でシュガーポットの砂糖をコーヒーに入れて、スプーンをかき回す流れるような一連の手の動きがあまりに美しくて見とれてしまいました。

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...あ、いけない、圭子ママの話でした。喫茶店の前には馴染みの呉服屋に寄って「クリスマスに間に合うように新しいのを作りたいけど・・・」と反物を広げて品定めをしたりして。手に取るのはやっぱり縞なんですね~。出勤前の銀座のひと時です。

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水商売の世界にずっと違和感を感じながらも、売り上げアップのために奔走する圭子。店のオーナーの大ママからは「その着物、ちょっと地味じゃないの」とダメ出しされるし、いろいろ苦労が絶えません。上前と下前を違う生地で仕立てるのって、この頃から普通に(?)あったんですね。私には奇抜でじゅうぶん派手に思えるけど...。

この時、お客で来てるのは加東大介演じる小さな町工場の社長。加東大介も、古い映画を見るようになって初めて知った俳優です。何か映画を見るたび登場すると言ってもいいくらい、様々な役で登場します。一度見たら忘れられない顔だし、善人も悪人も、金持ちも貧乏人も、何を演じても馴染むからすごいな~と思ってました。ググってみたら梨園がらみの役者一家の出と知ってビックリ(沢村貞子の弟で津川雅彦の伯父さんだったとは)!この映画でも、またすごくイイ役なんですよね~。

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夜の世界に染まりきれない役どころゆえか、リッチな自宅で普段着の着物(これも縞)+半纏の上からエプロン姿のほうがしっくり来る圭子ママ。団令子演じる店の女の子に朝食を作ってあげて、いっしょに食べながら恋愛観や亡くなった夫のことを語るシーンが好きでした。時々、こんなふうに華やかな表の顔じゃない部分が挟まれ、グッと来るのです。養わなきゃいけない家族が居ることなど、背負ってるものもだんだん見えてくる。

...と言っても、映画の中心はもちろんバー。葛藤を抱えつつ、ママ道を誇り高く行く圭子の姿がいい。上品できりりとした縞の着物が彼女そのものなのですね。店の中の人間関係や、行き来するお客のいろんな生き様が描かれ(マネージャー役のフレッシュな仲代達矢はカッコいいし、大旦那って感じの中村鴈治郎もさすがの貫禄)当時の銀座のバーという大人文化を垣間見れるのも楽しいです。

いろんな店があったんだろうけど、手の届かない高嶺の花と言うより、わりと誰でも気軽に楽しめる社交場って印象でした。圭子ママとユリママの店に飲みに行きたいわ(女のお客なんて居なかったけど)。お洒落でホロ苦い大人の映画でした。

posted by chiaki at 09:58| 日記 | 更新情報をチェックする